2023.08.21
近視がもつリスクと子どもの目を守るための外あそび推進(公益社団法人 日本眼科医会 常任理事 / 医療法人社団済安堂 井上眼科病院 院長 井上賢治先生)
井上眼科病院には小児を専門に診察する小児眼科外来があり、成人とは別のスペースで行っています。小児眼科外来を受診する患者は年々増えています。その理由として千代田区の3歳児健診では数年前よりフォトスクリーナーを導入し、異常が検出されやすくなったことや近視の子供の増加、近視の低年齢化が考えられます。
近年、児童生徒の裸眼視力1.0未満の割合が増加傾向で、令和元年度の文部科学省の学校保健統計調査報告では小学校34.57%、中学校57.47%、高等学校67.64%でした1。屈折異常としては小学生の中・高学年では近視が多く、近視の低年齢化も示されました。子供の近視の増加に伴い、強度近視となる症例も増加しています。近視は一度発症すると元には戻らず、進行が著しいと強度近視へ移行します。近視は眼鏡やコンタクトレンズを用いて矯正すればよいと考える親や学校の先生方もいますが、一方で近視は将来様々な眼疾患をひきおこす可能性があり、注意が必要です。白内障、近視性黄斑症、網膜剥離、緑内障、周辺部網膜変性では近視は各疾患の発症リスク(表)で、近視が強度なほどリスクが高いことも判明しています2。一般的な疾患と同様に近視も早期発見が大切です。3歳児健診、就学前健診、学校での定期健康診断で屈折異常のチェックを受けて下さい。また子供の近視を親が早期に発見できればよいと思います。テレビなどを近づいて見ていないか、目を細めて見ていないかをチェックして下さい。
表
近視の予防や進行抑制に対して日頃から実践できることがあります。本を読む時は30cm以上離す、スマートフォンなどのデジタルデバイスは1時間使用したら5分程度目を休めるなどです。また外遊びの時間が長い子供は近視の発症率が低いとの報告もあります3。アメリカで6~14歳の近視がない子供514人を対象にして1989~2001年の12年間にわたり追跡調査したところ、屋外活動時間が週14時間(1日2時間)を超える子供は、両親とも近視でも近視を発症しづらいことが判明しました3。さらに新型コロナウイルス感染症の影響で子供の外出も大人同様自粛となり、2020年の調査では小中学生の外遊び時間が2019年に比べて4割も減少していました4。台湾、シンガポール、中国では屋外での授業を義務化したり屋外活動を行うように法律を定めており、国を挙げて近視への対策を講じています。日本でもこの試みが推進されれば、子供の近視発症予防に貢献できると考えます。近視発症には痛いやかゆいといった自覚症状はなく、また子供が自分で近視発症予防に関する生活改善を行うことは難しいです。そこで親や学校の先生が近視発症予防の正しい知識を習得し、子供たちに実践してほしいです。そのことが子供たちの将来の重篤な眼疾患の予防につながります。皆で一致団結して子供の目を守りましょう。