2023.08.22
子どもの目を守るためには(公益社団法人 日本眼科医会 常任理事 / 医療法人 柏井医院 理事長 柏井真理子先生)
「文部科学省の学校保健健康統計調査」で令和3年度には、学校で実施されている視力検査で裸眼視力1.0未満の子どもは小学生が約37%、中学生は約61%で過去最多となりました。さらに裸眼視力0.3未満の小学生は約30年前に比べて3倍以上になってしまいました。裸眼視力1.0未満の多くは近視であることは、日本眼科医会の調査で把握しています。
近視とは、成長期に目の前後径が長くなり、焦点が網膜にあわず裸眼視力低下を生じることです(図1)。メガネやコンタクトレンズで視力は矯正することができますが、近視が進行すると将来重篤な眼疾患の罹患率が高くなると言われています。現在、世界的にも近視人口の増加が危惧されています。現状を正確に把握し対策を立てるため、文部科学省ではわが国で初めて令和3年度~5年度「児童生徒の近視実態調査」が開始され、北海道から九州までの約9000名の小中学生に対して屈折検査・眼軸長測定及び生活調査が実施されています。
図1:近視
近視進行の要因として遺伝的要因と環境的要因が挙げられており、片親または両親が近視の場合、子どもの近視のなりやすさは、それぞれ2~3倍、6倍程度と言われていますが、最近では環境的要因が問題視されています。近い距離で物を見ること、特に30㎝以内での近見作業が近視進行の大きな要因であるといわれています。もちろん昔から子どもたちも日常で読み書きをする時間もそれなりにありましたが、昭和57年に「ファミコン」、平成元年「ゲームボーイ」平成8年「たまごっち」平成16年「DS」とデジタル機器の登場で、外あそびを目いっぱい楽しんでいた世代の子どもたちが、室内でデジタル画面を近距離で長時間凝視し続けるなど生活が変化してきました。そして社会全体がスマートフォン時代に突入、インターネットを介した画像に曝露されるなど加速度的に視環境は悪くなってきました。
一方、世界で推進されているICT化に乗り遅れないよう文部科学省では2021年から「GIGAスクール構想」が実践され、小中学校の児童生徒に一人一台のデジタル端末が配布されました。近視発症の低年齢化や子どもたちの近視の増加が問題視されている現状で、デジタルデイバイスを活用した学習スタイルが導入されました。もちろん黒板だけの授業ではなく、ICT活用の授業は様々なメリットも多くあり、これからの学びに必要不可欠であることは自明の理です。これからはICT機器とうまく付き合っていくこと、そして幼少時期より「自分の身体や目は自分で守る」という健康リテラシーを持つことが大変大切です。「近見作業はかならず30㎝以上の視距離をとる」、「30分に1回20~30秒程度、遠くを見て目を休める」ことを心がけることです。学校のみならず家庭でも子どもたちにしっかりと伝えていただきたいです。日本眼科医会では、健康リテラシーの育みのために文部科学省と連携し子ども向けの目に関する啓発資料や動画を作成し社会に発信しています(図2)
図2:目の健康啓発マンガ 『ギガっこ デジたん!』
また日陰であっても屋外での活動が近視進行の予防になることが報告されています。1日2時間が理想ですが、短くてもある程度効果もあり、また幼少時から小学校低学年ぐらいが特に有効であるようです。さらに外あそびは近視予防のみならず心身の健康のために有益です。しかし最近は、子どもたちが安全にゆったりと外あそびするスペースが少ない等問題も多々あります。社会全体で子どもたちが安全に外あそびできるスペースの確保や工夫が求められています。